東京高等裁判所 平成元年(う)591号 判決
被告人 松田公一
〔抄 録〕
そこで、本件に即して同法二一条と二二条の関係についてみると、同法二二条は、火薬類の譲受けの許可を受けて適法に火薬類を所持していた者が、その火薬類を消費し、もしくは消費することを要しなくなった場合において、なお火薬類の残量があるときは、遅滞なくその火薬類を譲り渡し、又は廃棄しなければならないとして、残火薬類の処分についての措置義務を課し、その義務に違反した者に対しては同法六〇条一号によって罰則を定める一方、右の遅滞なく残火薬類を譲渡又は廃棄しなければならない場合に、その措置をするまでの間の暫定的な所持は、同法二一条八号により、所持禁止の除外事由に当たり、違法性を有しないものと定めている。この立法趣旨は、火薬類の譲受けの許可を受けて適法に火薬類を所持している者が、その譲受けの目的を果たしてなお残火薬類を所持する場合、譲受けの目的(厳密には譲受けの目的となる消費目的)を達した後において、その者に残火薬類の所持を許す理由はなく、保安上もすみやかにこれを譲渡又は廃棄させるのが相当であるため、その所持者に対し、遅滞なくその残火薬類を処分することの措置を義務づける(二二条)とともに、他方、右の措置をするまでの間に限り、その者の所持が引き続き適法であることを明らかにするため、この間の所持を、所持禁止の除外事由の一つ(二一条八号)と定めたものと解される。したがって、火薬類の譲受けの許可を受けた者が、その火薬類を消費し、もしくは消費することを要しなくなった場合において、残火薬類を遅滞なく譲り渡し、又は廃棄しないときは同法二二条違反の罪が成立するが、この場合において、遅滞なく譲渡又は廃棄をするための合理的な期間を経過してなお残火薬類を所持するときは、たとえ、いずれ譲渡又は廃棄をする意思が存するときであっても、もはや同法二一条八号所定の除外事由には該当せずに、同法二二条違反の罪とは別個に二一条違反の罪が成立し、両者は併合罪の関係にあるものと解すべきである。≪中略≫
原判決は、「二二条により残存火薬の措置義務を負う者が、遅滞なく措置義務を履行しないのみならず、(放置するのを超えて)所持を継続するときは、直ちに二二条違反の罪と二一条違反の罪が成立し、両罪は観念的競合の関係にあり、検察官が法定刑の重い二一条違反の罪のみで公訴提起することは、その裁量の範囲内である」と判示するが、同法二二条にいう残火薬類の措置義務違反は、遅滞なくその義務を履行しなかったことによって直ちに犯罪が完成する(なお、公訴の時効もその時から進行する。)ものと解されるのに対し、二一条違反の罪は、その措置のための合理的期間経過後に残火薬類を所持することによってその所持の継続する間、違反が継続するものであって、両者は観念的競合の関係にあるものではないと解すべきであるから、原判決は、同法二一条と二二条の罪数関係についての解釈を誤ったものといわなければならない。
(栗原 泉山 神作)